扉を開けたメール
「彼女はどこか異国へ行って、全てを忘れて余生を送ることにしたんですね。今頃、空を飛んでいるんでしょう」
花山がそう云うと、穂高が無言で頷いた。そのとき、頭のちょんまげが揺れた。陶芸家は冷めてしまった茶を、ひとくち飲んだ。
正子と華奈は屋外にいて、庭の花々を愉しそうに眺めていた。
「ところで、聡一さんの日記は残ってますか?」
「あれは釣竿と一緒に窯の中に放り込んで、燃やしてしまったよ」
その窯がどこに在るかを花山はまだ知らなかった。そこに火を入れるとき、それが本格的な修業の始まりだろうと、彼は思った。