扉を開けたメール
穂高は立ち上がった。パソコンがある書斎へ向かったのである。
「こっちもなるべく急いで確認してみます」
花山は慌て気味に自室へ戻り、パソコンの電源を入れた。立ち上がるまでがもどかしく、いら立った。
「トモミ」というハンドルネームから検索すると、マイページはすぐに標示されたが、プロフィールは女性であること以外、全く記載がなかった。
その他創作部門の一位の作品、「閉じ込めた愛」は総合でも一位なので、作品は探すまでもなかった。
「わたしを知っている人は誰も、わたしが最愛の息子と夫を同時に喪った女であることを知っている……」
それがあらすじだった。
本文も短いものだったので、花山は十五分で読んでしまった。九ページで完結していた。
本当だろうかと、疑いたくなるような内容だった。
その女が夫と息子の事故死を保険会社に連絡したとき、担当者が「聡一」という名前だった。聡一は仕事柄非常に人当りが良く、紳士的で女性には好かれそうだった。
彼は優しい性格の釣り好きの男だった。その女は聡一と瞬く間に恋仲になった。そして、ふたりは「不倫関係」になってしまった。
その女は異例の速さで保険金を受け取り、その金で店舗兼用住宅を建て替えた。彼女はその後、聡一に妻との離婚と、自分との再婚を要求した。聡一がそれを拒否した理由は、幼い娘を溺愛していたからだった。