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扉を開けたメール

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警察



 CADというものはかなり面白いと、花山は思う。直線も曲線も、或る程度自由に描くことができる。まだ三日目なので、彼は好き勝手にやっていた。「習うより慣れろ」と、隣の席の先輩の加島宗徳はもの凄い速さで仕事をしながら云った。花山は教えてほしいと云ったのだが、特に教えてくれたことはない。花山は不満に思っている。彼は分厚い取り扱い説明書を読みながら、少しづつ操作方法をおぼえて行くほかはなかった。
 花山はたまに設計部の部長に呼ばれて図面のコピーを頼まれたり、書類の整理を手伝わされたりした。設計部の部長の吉池慎太郎も、花山に対してきついことは何も云わない。
 花山は早く図面を作成できるようになりたいとも思うが、とりあえず快適に過ごしていた。
 メールを送ってくる娘のことが気になった。高校三年生くらいなのか、二十歳過ぎなのか、気になるところだ。
 花山は先月二十六歳になったばかりだが、まだ一度も恋愛をしたことがない。CADで遊びながら理想の恋人の名前を入力しようと考えようとしていたら、逆の方向へ向かってしまい、最悪の名前を考えていた。まずは「貞子」である。それは、ホラー映画で使われていた名前だ。ついで「富子」だと思った。子供の頃、近所に住んでいたその子は、いつも花山とけんかばかりしていた。貞子と富子。そんな名前の美女は想像しにくい。「子」がつく名前はもう古いという感じでもある。
 六時になると花山は急いで退社した。なんとなくアパートの近くのラーメン屋に行った。このラーメン屋も余り繁盛はしていない。十人座れるカウンターの席が、埋まったところを、花山は見た記憶がない。
 少し無理をして餃子を追加した。ビールも飲みたいが、値段が高いので我慢した。ところが、グラスがきたので驚かされた。
「デコちゃん元気?一杯やってよ」
 どこからか現れた笑顔の間島辰三が、隣の席に座った。カウンターの端と端に座っていたらしく、気付かなかったということらしい。花山が不注意なのだろうか。間島は同じアパートに住んでいる、まだ二十代の、若いタクシードライバーである。
「明けなの?」
「わかる?疲れた顔してるだろ」
「起きたばかりかな?」
「三十分前まで寝てたよ!」
「景気の話はよそうね」
「そうだね、精神衛生上好ましくないからな」
 間島は苦笑しながら云った。彼の体重は百キロを超えるだろうと、花山は思った。いつもそう思うのだが、それを話題にしたことが、一度はあったような気もする。
「その後、芸能人は乗せてる?」
「そうだね。月五、くらいかな」
「必ずチップをくれるんだよね。いいな」
「プライドがあるからね。常に周囲からの視線や、噂を気にしてるんだな」
「この前はブラジル料理をご馳走して頂いて、ありがとうございました」
 間島はブラジルという国に魅力を感じている。なぜなのかは聞いたようにも思うのだが、
花山は忘れてしまった。
「あ、どうも。ところで、どうですか。新しい仕事は」
「それがねぇ、まだ仕事らしい仕事をしてないんですよ」
「三日目だったかな?新人研修中だね」
「そういうものは特になくてね、ちょっと不安かな」
「トランスを作る会社だっけ。きついこと云うけど、いまどき設備投資は活発じゃないよね」
作品名:扉を開けたメール 作家名:マナーモード