扉を開けたメール
「済みません。自転車を預けないと持って行かれますからね。置く場所を探していたんです」
「神様が逢わせてくれたのね。気分転換に、洋服を見に行こうと思ってたの」
薄暗い場所のせいなのか、友里は意外に美しく見えた。
「その辺に入りますか?」
すぐそこに居酒屋が在った。見渡すと果物屋、立ち食い蕎麦、パチンコ店、サラ金、楽器店などが眼に入った。昔とは異なり、カフェの類は激減していた。
「軽く一杯ね……自転車の撤去は平日の昼間だけよ」
「そうですね、じゃあ街路樹にチェーンで繋いでおきます」
竹沢友里はやや大柄で、スタイルがいい。先に階段を昇って行く彼女を見て、花山はそう思った。
威勢良く「いらっしゃいませー!」と云う声が幾つも飛んできた。店の中は大賑わいだった。
従業員がテーブルとテーブルの間を走りまわっている。
「満席みたいですね」
「でも、奥のほうにあいてそうな席があるみたい」
花山にはどこにそんなところがあるのか判らなかった。
「いらっしゃいませ。二名様ごあんなーい!」
若い男に早足で従いて行くと、確かに最も奥のコーナーにふたり分の席が奇跡的にあった。角の席に友里が入り、花山は彼女と向き合って座った。友里はテーブルの上の丸いものを押した。従業員がくると彼女はレモンハイをふたつ注文した。花山は生ビールを飲みたかったのだが、黙っていた。