扉を開けたメール
失踪
花山は初めてトランスの外形図を描いてプリントアウトした。CADは入力データをどんどん拡大して行くことができる。そうすると線と線の交点が僅かにずれていたりする。だが、そういうことは普通のサイズに戻してしまえば問題ない。本当は正確に数値入力すればそういうことにはならない筈だった。その辺りがまだ習得できていない。
終業時刻を報らせる電子音が、工場内に鳴り渡った。
更衣室で作業服から私服に着替えた花山が、廊下に出た。
「済みません。花山さんでしたっけ?」
廊下を歩いていると、彼は背後から声をかけられた。振り向くと女子事務員の竹沢友里が笑っていた。彼女は花山の好みのタイプではないが、それほど悪い印象ではなかった。
「竹沢さんでしたね。お住まいは近いんですか?」
並んで出口へ向かった。
「遠いんですよ。連絡が悪いと家まで一時間半です」
「毎日御苦労さまです。ぼくは自転車で十分です」
「そうなんですか。羨ましいな」
「金曜日の夜はデートでしょうね」
「ありがとうございます。そう云って頂けると慰められます」
「適齢期の独身女性で、恋人がいるひとは三割らしいですね」