扉を開けたメール
「ともみさんがいなくなったときの捜索願はそのままにしておいたほうがいいと思いますよ」
と、花山が云った。
敬子は驚いた顔になった。
「この子は、実は生まれてないんです。だから捜索願も、出してません」
ほかの三人が驚きの声を挙げた。
「十八年前、わたしは夫と長男をなくしました。急に高熱を出した四歳の孝太を抱いて、夫は病院へ走りました。そのとき、飲酒運転の車に、轢き逃げされたんです。ふたりとも即死でした」
間島が訊いた。
「……そのとき、ともみさんは幾つだったんですか?」
「妊娠四箇月でした。わたしはあのとき、頭がおかしくなってた……。だって心から愛するふたりを、同時に喪ったんです。だから、自殺は何度も考えた。だけど、お腹の中の子だけは殺したくなかったわ。わたしの頭は相当おかしくなってたのね。新たに生まれた子がまた轢き逃げされると思い込んでしまったのよ。そういう宿命なんだと……。絶対にこの子は守りたい。
この子を轢き逃げされないようにするには、家から出さなければいいと、わたしは思った。
夫と長男の生命保険金で、急いでこの家を建てて、わたしは誰にも知られずにこの家の中で出産したの。出生届けはしなかった。だって、学校へ行くようになったら、また酒酔い運転の車に轢き逃げされる。ともみをこの隣の部屋に閉じ込めたのは、三歳のときだったのか、四歳のときだったのか……」