扉を開けたメール
薄れ行く霧
「そうだね、失礼!まあ、要するに美香ちゃんは、綾小路きみまろに心酔していたことがあるんだって」
綾小路きみまろは、主婦層に人気の芸人である。
「綾小路きみまろだって?!それは面白過ぎだよ」
「面白い子だよ。美香ちゃんは」
「そうかぁ、『あやさん』というのは、そっちのあやさんだったのか!」
大分前に間島と彼の仲間たちに、花山は駅で偶然に会い、六人くらいで居酒屋へ行ったことがあった。
だが、花山はその後、一度もそのときのことは思い出さなかった。今考えてみると、あの中にふたりの若い娘がいた。そのうちのひとりが美香という娘だったらしい。そのときに「デコちゃん」のメールアドレスが、その娘の携帯電話に登録されたのかも知れない。
メールアドレスというものは、教えたことも教えられたことも、意外に忘れてしまうことが多いと思った。
「思わぬ展開が見え始めてきたね。だけど、美香ちゃんの携帯がなぜともみさんの手に、というか、ともみさんの母親に渡ったわけ?」
「おいおい、きみは常軌を逸した発言をしている気がするぞ」