扉を開けたメール
ともみの母であるあやさんは、カラオケのある小料理屋を経営している。十数年前、彼女の知り合いや友人の可愛い子供たちが、相次いで行方不明になった。子供たちが得体の知れない男たちに拉致されたという、目撃証言も多かった。
あやさんは重いノイローゼになり、器量良しの幼いともみもいずれ誘拐されるかも知れないと思い込んでしまう。
当時まだ二十代だったあやさんは、猫が自由に出入りできる扉を作って欲しいと、知り合いの大工に頼んだが、でき上がったものは自分で取り付けると主張した。
窓は下半分を大工に塞いでもらった。
幼いともみにトイレの使用法、身体の洗い方、掃除の仕方、勉強の方法などを、数か月の間徹底的に教え込んだ。
監禁の場所は同じ家の中ではあったものの、娘にその部屋で、涙ながらに別れを告げた。
愛する娘を部屋の中にとり残したまま、床の高さに横長の四角い孔のあいた開かずの扉を、母は苦労してはめ込み、固定してしまった。
その開かずの扉の前にはソファーを置き、その下の奥の孔から、様々なものを差し入れするようになった。
ともみは最初、さんざん泣きわめいたが、次第におとなしくなって行き、ついにはひとことも発しなくなった。
しかし、ときどきテレビの歌番組に声を合わせて歌っていることもあった。