花、無、世界
目眩が治まり、闇から解放された私は少し寂しく思いながら頭を上げた。涙はもう止まっている。けれど、頬は濡れたまま。目はきっと赤い色。
屋上の床に座り込んだまま、ただうつらうつらと夢現(うつつ)の心地。心の中をさまよった。
何もない、無。ささやかな藤色。
ぼんやりとした色が私の瞳に浮かぶ。人はとても眩しいなと思った。そして、とても悲しい。私はれいのことも、藤のことも、そして見知らぬ誰かのことも愛おしいと思った。
私は私を愛おしく思えれば、生きができるのかもしれない…。生きた瞳を持つことができるのだろうか。
なにもかも欲して、無も永遠も欲して、それでも何もかも拒絶する自分を許すことが良いのだろうか。分からない。きっと意味なんて何もない。
私も名が欲しいと思った。私にもあったはずなんだ。
私の名が。
れいのように、藤のように、生きた名前が。
誰か、呼んで。
誰か。
はらり、はら。
開いた手のひらから枯れた花がこぼれおちていった。舞い散るように。名もなき花。
いや、名を忘れられた花。