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冬野すいみ
冬野すいみ
novelistID. 21783
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花、無、世界

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目眩が治まり、闇から解放された私は少し寂しく思いながら頭を上げた。涙はもう止まっている。けれど、頬は濡れたまま。目はきっと赤い色。

屋上の床に座り込んだまま、ただうつらうつらと夢現(うつつ)の心地。心の中をさまよった。


何もない、無。ささやかな藤色。


ぼんやりとした色が私の瞳に浮かぶ。人はとても眩しいなと思った。そして、とても悲しい。私はれいのことも、藤のことも、そして見知らぬ誰かのことも愛おしいと思った。
私は私を愛おしく思えれば、生きができるのかもしれない…。生きた瞳を持つことができるのだろうか。
なにもかも欲して、無も永遠も欲して、それでも何もかも拒絶する自分を許すことが良いのだろうか。分からない。きっと意味なんて何もない。

私も名が欲しいと思った。私にもあったはずなんだ。
私の名が。

れいのように、藤のように、生きた名前が。

誰か、呼んで。

誰か。




はらり、はら。

開いた手のひらから枯れた花がこぼれおちていった。舞い散るように。名もなき花。
いや、名を忘れられた花。
作品名:花、無、世界 作家名:冬野すいみ