色の付かなかった夢
第3章 デッサン
僕は新しい歌を作った。
一人の名もないシンガーが、徐々にヒットを飛ばしビッグになっていく。
イントロのギターを掻き鳴らしただけで、観客から大きな拍手が湧き起こる。
ステージにはスポットライトが輝き、そのシンガーは客を魅了する。
そんなサクセスストーリーを描いた歌だ。
これはまさに僕の夢であった。
ただしこの夢はまだデッサンだった。
夢だからモノクロなのだ。
どんな色を付けたらいいのか自分でもまだわからなかった。
僕はこの夢に色を付けてくれる画家を探していた。
そう、この歌はお前に捧げる歌だったのだ。
この新しい歌をEdgeで初演する日が来た。
もちろんその日は月曜日だった。
お前はいつもの時間にいつもの席でタバコを吸っていた。
僕は終始“長髪の無愛想な客”に向かってこの歌を歌った。
お前は一瞬戸惑ったような表情を浮かべたが、すぐにあのいつもどおりの仏頂面に戻った。
僕は渾身の力を込めてこの歌をお前に捧げた。
ステージが終わった後、僕はお前の席に近づいてこう言った。
「あなたに捧げたい歌を歌わせてもらいました。僕のメッセージを伝えたかったのです」
僕は続けた。
「それからひとつお願いがあります。あなたの大切な作品をひとつだけ僕にいただけないでしょうか。この店に飾りたいのです」
お前は小さく頷くと新しいタバコに火をつけた。
それから二週間後僕はいつものステージを終え、舞台袖でギターの手入れをしていると、
ふと人の気配を感じて顔を上げた。
そこにお前が立っていた。
相変わらずの仏頂面で無愛想な表情だった。
いつもよりやつれた感じだった。
もともと華奢な体が余計やせっぽちに見えた。