色の付かなかった夢
それから約1ヵ月が経ち、僕もそろそろEdgeで歌うことに慣れてきた。
ある月曜日の夜、お前はいつも2杯で終わるバーボンのソーダ割を、珍しくもう一杯おかわりした。
いつもにも増してタバコの煙が朦朦とした夜だった。
ステージを終えた僕は、いつもは舞台袖の椅子で休んでいたが、思い切ってお前に話しかけてみた。
「今日は3杯目のバーボンですね」
不躾な僕の言葉にお前は怪訝そうな顔でこちらを見た。
「突然すみません。いつもありがとうございます。あなたの拍手はとても励みになります」
お前は吸いかけのタバコを手に取り、一息吸うと大きく煙を吐いた。
まるで「大きなお世話だ」と言わんばかりに。
結局お前は一言も話さず、3杯目のバーボンを飲み干して席を立った。
その日のうちに、僕はEdgeのマスターにひとつのお願いをした。
1枚だけで良いので、お前の絵を店に飾らせて欲しいと。
マスターは、店の雰囲気に合ったものなら、という条件でしぶしぶ許可してくれた。