一期一会
しのぶは何か考え事をしているような表情になり、バルコニーから広いリビングに戻った。
早川もそれに倣い、再びソファーに腰をおろして缶のものを飲み干した。
冷蔵庫から飲み物を更に二本出してきたしのぶはソファーに座りながら、
「朝のうちに善光寺の近くでお土産を買わせて」
「店が開くのは十時くらいでしょうね」
「そうかな。このあたりだと、やっぱりお蕎麦とかね」
「たしか、七味唐辛子なんかも名物だったような気がします……善光寺にも寄って行きますか?」
「お寺はあまり好きじゃないの。隣の美術館で東山魁夷の絵も見られるのよね」
「団体が入ると混みそうな気がします」
「日曜日だものね」
「明後日は仕事ですか?」
「ええ、学さんもそうでしょ」
「そうです。走行距離が四十万キロに近いコンフォートで仕事です」
「コンフォート?」
「タクシー専用の車種です……初めてでしたよ。外車を運転したのは」
「わたしの仕事を知りたいのね」
しのぶはつまらなそうに云った。