一期一会
大きな寺のある街
マンションの駐車場に車を入れるように指示されたとき、早川はかなり驚かされた。
そこは長野市内の大きな薄茶色のマンションである。故早川学氏が所有していた住まいが、そこにあるのだった。
エレベーターで十階へ上がった。さえらもそこには二度程来たことがあるらしい。
既に眠くなっていた彼女は、寝室で眠ってしまった。
そこに来る途中、国道十八号線沿いのコンビニでアルコール入りの飲み物やつまみを買ってきた。リビングで飲み始めたとき、時刻は午後十時だった。早川がしのぶに買ってもらったのは廉価な発泡酒だ。
「学さんはビールが嫌いなの?」
「低収入のタクシードライバーには発泡酒が似合ってます」
そう云うと彼は紺色のアルミ缶から冷えた液体を飲んだ。同じ革張りのソファーに座るしのぶも一本目の缶チューハイを飲み干した。
「ちょっと、外の景色を眺めてもいいですか?」
「ご遠慮なくどうぞ」
しのぶは微笑している。