一期一会
「いいんですか?」と澤田の妻が云った。
「ありがとう」と、しのぶが云った。
急に口の中で強烈に拡がり始めた杏の風味に、早川は驚いた。
「本当だ!これは癖になる味です。ありがとうございます」
早川は甘く味付けしていないものは初めて口にしたが、その味を気に入ってしまった。
「是非またいらっしゃってください」
さえらが娘の傍に行って握手を求めた。順次全員が娘と握手をした。早川はひどく得をした気分だった。
そのあと「さようなら」と、全員が云い合った。
澤田家の三人は白い大きなワンボックスに乗り込んで出発した。早川たちもそのあとに続いた。
「あっ!段々味がわかってきた。甘くないのもいいね」
しのぶも杏を噛みながら笑顔になった。
「次の目的地の住所はわかっていますか?」
「大丈夫よ。今からナビに入れるからね」