一期一会
「自転車で三十分です。でも、若いから苦になりません」
「そうですね。文句なしに若いなぁ。いつかまたお会いしたいものです」
「ありがとうございます。ぜひ、またお越しください。今日は十時までですから、ごゆっくりどうぞ」
「ありがとうございます」
娘も早川も、ずっと笑顔のままだった。目の前の娘があの、和食のファミレスのウエイトレスと似ていることに、漸く早川は気付いた。温かくなった心で彼は席に戻った。
「今日の暑さは半端じゃなかったですけど、明日は天気が悪いみたいです」と、澤田。
「そうですか。涼しくなるんでしょうね」
「一日雨らしいんです。台風の影響かしら」
澤田の妻は、表情を曇らせている。
「やまない雨はない。苦あれば楽あり」
「そのうちにどうですか、一緒にテニスでも」
「テニスですかぁ。最近やってませんね」
「早川さんは、テニススクールのコーチをしていたことがあるそうですね」
「昔の話ですね。常日頃やってないと、テニスはできませんよ」
「テニスたのしいよね」
澤田の娘だった。