一期一会
「こちらの券売機で入浴券を二枚だけお願いします。今日は特別と書いてあるところを押してくださいね」
作務衣の娘はカウンターの中からわざわざ出てきて教えてくれた。終始にこやかで、いつまでも眺めていたいような可愛らしさがあると、早川は改めて思う。こんなににこやかな表情の人間に出会ったのは、初めてだとも思った。
「虫歌というのは?」と、早川。
「この近くのお寺の名前です。今日は月に二回、お安く入浴できる日なんですよ」
「二枚だけでいいんですね」と、しのぶ。
「はい。二枚だけでいいんです」
しのぶが紙幣を挿入し、機械から出たものを娘に渡した。
「ごゆっくりどうぞ。お飲み物はアルコールドリンクが奥のカウンター、ソフトドリンクはわたしにお申し付けください」
「あ、良かった。さえらはコーラだよね」
「うん」
さえらは嬉しそうに返事をした。