一期一会
「すももの酢漬けなら甘くないんですが」
そう云って老人が持ってきたのは、昔の駄菓子屋で売っていたものだった。
「懐かしいわね。子供の頃買ったことあるわ」
しのぶは嬉しそうに云った。早川も笑いながら同じことを云った。紅いすももは一つづつ、ビニール袋に入っていた。
「これだよ」
さえらだった。真剣な顔をしている。
「えっ!これのこと?杏の漬物?」
「そうだよ」
さえらは笑顔になった。
「さえらちゃん。良かったね!あったね!」
早川も嬉しかった。店の老人も笑った。
「そうか。これのことだったのか」
しのぶは複雑な表情をして苦笑しながら、それを十個購入した。
暑い屋外に出ると、鬱蒼と樹木が茂る里山の向こうに、夕陽を浴びながら盛り上がる積乱雲が眩かった。