一期一会
「そうでもないよ」
さえらは嬉しそうに笑った。
「さえらは字を書くのが好きなんだよね」
しのぶも笑顔で云った。
「うん」
タクシーの乗務員に描いてもらった地図はさすがに判り易く、間もなく一軒目の土産物屋に着いたが、そこはシャッターをおろしていた。
二軒目は鉄筋コンクリート二階建てで、駐車場を完備していた。三人が車から離れた。
しかし、外見の立派なこととは裏腹に、中は冷房がなくて暑かった。
「漬物?杏の?シロップ漬けじゃなくて?」
まるまると太った中年女性の店員は、眼をまるくして驚いた。
「甘くない漬物なんです。ありませんか?そうだよね、さえら」
「そうだよ。吉田君にあげるんだよ」
川の近くにある道路の行き止まりに在った三軒目の店は、酒や食料品と共に杏製品を売っていた。
「乾燥杏だったら甘くないんですけどね、これです」
店の老人に教えてもらったのは、ただ干しただけのものだった。それはひからびて、黒ずんでいた。