一期一会
「すみません。この辺りに杏の専門店はありませんか」
ゴルフのクラブを持っている男が汗をタオルで拭きながら歩いてきた。
「杏は土産物屋で売ってますよ。専門店というのはないと思います」
にこやかに教えてくれた。
「そうですか。土産物屋はこの近くにありますか?」
「三軒程度ですが、知っていますよ」
「お忙しいところ申し訳ないんですけど、教えて頂けますか?」
「見ての通り暇ですから大丈夫です。ちょっと待ってください」
もうすぐ五十という感じの、やや太めの男は更に笑った。少し離れた場所の二階建の建物に入って行き、数分後に戻ってきた。
「観光ガイドマップがあったんですけど、品切れでした。何か書くものはありますか?」
いつ起きたのか、さえらがノートとボールペンを早川に渡した。開くと不完全な漢字が沢山書いてあった。棒が一本余計だったり足りなかったりの文字が繰り返し書かれていた。
早川は白紙のページを探し、そこに地図を描いてほしいと、乗務員に頼んだ。中年男は急ぎながらも丁寧に、地図を描いてくれた。そのあとやはり丁寧に、三箇所の土産物屋へ行くための説明をしてくれた。