一期一会
杏の里
午後の国道四百三号線を下って行くと、篠ノ井線と並行する形になった。既に千曲市に入っているらしく、「江戸寿司千曲店」などという看板が見えた。広い河原を川が流れているのが見え、非常に長い千曲橋を渡った。右に更埴体育館、その先にカラオケ本舗招き猫の看板が見えた。
国道四百三号と、同じく国道十八号が直角に交わった。杭瀬下というその交差点には長野銀行屋代支店があり、その奥がしなの鉄道の屋代駅というところまできた。杏の里にほぼ到着したことになるらしいのだが、平凡な地方都市の街並みが広がっているだけだった。
或る交差点を左折して少し行き、更に右折すると、「杏の里」という案内標識が初めて見えた。だが、杏の専門店があると思って来たのだが、それらしい店は見当たらない。せめてガイドブックの一冊くらいは用意するべきだったと思う。コンビニで立ち読みしても良かったのだが。
「あれはタクシーの会社でしょう。聞いてみようよ」
しのぶが云った。
空き地に数台の青いタクシーが止めてあり、乗務員らしき人物が汗だくでゴルフの素振りをしていた。道路からそこに乗り入れて行って窓を開けると、猛烈な熱気が車の中に舞い込んできた。