一期一会
長くきれいな足を眺めながら、早川は今夜も車の中で仮眠をさせられるのだろうかと、
そのことのほうが気がかりだった。
キーのスイッチを押すとハザードランプが点灯し、ドアロックが解除された。しのぶは車の横で微笑みながら、早川を待っていた。
「お蕎麦のあとは杏の里よ。さえらのためだから頑張ってね」
かなり暑い車に入って早川が始動したあと、しのぶとさえらも乗車した。
「白馬とか、上高地とか、乗鞍へ行きたいと思ってました」
「それはまた今度ね。今日は杏の漬物を探すのよ」
また今度、ということばに早川は驚いていた。しのぶが考えていることを知りたかったが、
追及するとまた険悪なムードになりかねないと思い、黙って車を発進させた。
「杏の漬物。吉田君にあげる」
さえらだった。笑っていた。
「杏の漬物って、シロップ漬けとは違うんですか?」
「甘くないらしいの。意外においしいかも知れないわよ」