一期一会
安曇野から
すぐ近くで蕎麦を切る大きな音に、二階の休憩室で再び寝込んでしまった早川は起こされた。いつの間にか隣でしのぶも眠っていた。着替えて白いショートパンツ姿だった。余りにも素晴らしい脚なので、早川はめまいがしそうだった。細い腕も首から胸への肌も、素晴らしいきめの細かさだった。
しのぶの寝顔は美しかった。早川はその可愛らしい唇に、自らの唇を重ねる様を想像した。
その刹那、美しい眼が開いた。驚いた早川は一瞬、心臓がとまったような気がした。
「あー。うるさいわね……お蕎麦を切っているのね。どこかおいしいお蕎麦屋さん知ってる?」
座卓の上には、やはりチューハイの缶が見えた。
「……ありますよ。茅葺屋根の民家がそのまま蕎麦屋、というのがあります。この近くかも知れませんね。人気があるから入れるかどうか、判りませんけどね」
「おいしいの?」
「保証できます。その店では、取り立ての山葵が丸ごとついてきて、自分でおろすんですよ」
「こだわりのお店なのね。行きましょうか」
しのぶの笑顔は別人のように輝いていた。それもその筈、すっぴんだった。化粧をした顔よりも美しいと、早川は思った。