一期一会
「そうですか。ありがたいですね」
「あっ、きれいな川ね。停めて写真を撮りましょう」
梓川だった。頭上にはきれいな青空が輝いていたが、山脈を取り囲んで相変わらず雲がうずくまっていた。
車の中にさえらを残して二人は外に出た。車の外は猛暑だった。その中で早川はデジカメで、しのぶは携帯電話で、川の周囲の風景を撮った。しのぶは記念撮影を拒んだ。
農道を移動していると、電柱に温泉旅館の広告が見えた。それを頼りに温泉を目指すことになった。
所々で写真を撮りながら、一時間近くも水田地帯の中を探しまわった。
午前十一時過ぎ、漸く第二の目的地に着いた。
針葉樹の多いなだらかな斜面に、何軒かの旅館があった。未舗装の広い駐車場に車を入れ、
木漏れ陽の中を日帰り入浴可能な旅館に向かった。
玄関を入ったのは、木造二階建ての歴史を感じさせる温泉宿だった。旅館の名称入りの黒いTシャツの女性が受付をした。しのぶ程ではなかったが、意外にも都会的な洗練された印象の女性だった。
そこでは銭湯より安い費用で天然温泉に浸かることができる。だから地元の人もきているようである。その費用はしのぶが出してくれた。