一期一会
そのとき急に騒々しくなった。五百メートル程離れた里山の上空に、木材を運搬する大型のヘリコプターが現れたのだった。
二人が戻るのを、彼は車の中で待っていた。
三十分程、彼は眠ったらしい。早川は銃撃線戦に加わっている夢をみていたような気がする。重い機関銃を持って敵兵を狙い撃とうとするのだが、引き金をいくら動かしても一発も撃つことができず、苛立っていたようである。そんな夢をみたのは初めてだった。
しのぶに早川が起こされたとき、さえらは暗い銀色の紙袋を持たされていた。特有の顔つきで、笑っていた。
「あと三十分遅かったら早川さんの弟さんが、足の不自由なお母さんを病院へ連れて行くところだったわ」
「危ないところでしたね」
「おばあさん、病院へ行ったよ」
さえらは興奮していたのか、赤い顔をしていた。
恐ろしく狭い道をゆっくりと進んで行くときは、早川は悪夢の中に戻されたような気分だった。大分広い道に出ると、彼は急に嬉しい気持ちになった。
「ほんとうはトンボ返りしたいけど、早川さんが明日まで休みだから、温泉めぐりしましょ」
しのぶは缶チューハイをのみながら云った。