一期一会
車一台分の地面をコンクリートで固めた奥にプレハブ平屋の建物があり、その中を覗いてみると無人だった。早川はスライド式の扉の横の、呼び鈴のスイッチを押した。パソコンとプリンターが事務机の上にあり、壁には外国の風景写真のカレンダーが見え、何箇所か日付の数字を赤いマジックで囲んであった。
静かだった。但し大きな蜂が早川の周囲を旋回し始めた。彼が身をかがめていると、事務所の横の通路から紅いTシャツとジーンズの女性が現れた。かなり濃い化粧の四十前と思しき女性が会釈した。
「早川さんのお宅を探しているんですが」
「早川さんはうちの裏の家ですよ。ちょっと来てください」
早川の胸はどきどきしていた。
道路に出て指差された方向を見ると百メートル程先に紅いポストが見えた。
「あのポストの手前を鋭角に右折すると裏の道に入れます。左側に神社が見えたら、そこから三軒目の家が早川さんのお宅です」
「ありがとうございました」
「親戚のかたですか?」
「えっ、まあ、そんなところです。どうも」