一期一会
ガソリンスタンドには真新しい軽トラックが、狭い敷地内に停められていた。
その横で立ち話をしていたスタンドの経営者らしき男ともう一人の男は、早川が車の外に出たその刹那、逃げるように裏の方へ走って姿を消した。
気温は既に三十度を超える暑さだった。
道路の反対側にはディーゼルらしいエンジン音をさせているマイクロバスが停車しているが、無人である。
少し離れて雑貨屋兼食料品店があるので歩いて行き、暗い店内に声を掛けたものの、返答はなかった。
車に戻って早川は云った。
「もう少し先へ行ってみましょう」
センターラインこそないが、道路は意外に広くて舗装もいたんではいない。
少し行くと黒ずんだ石標が立っていて、上野中学校跡地、という文字が刻まれていた。
「ここでしょう。絶対そうですよ」
「会社の事務所みたいのがあるわね。聞いてきて」
「はいはい。暑さに負けず、行ってまいります。
さえらちゃん元気?」
さえらは何か判らないキャラクターつきのボールペンを、相変わらず眺めていた。