一期一会
田畑の一角を墓地にしているところが目立っていた。この辺りでは朝の散歩のついでに墓参りをする、ということが多いのだろう。道路が合流するところなどには永い年月、徒歩での旅人たちを見守ってきた道祖神も、随所に見受けられた。
「はい」
しのぶは後方のさえらに手渡してから早川にも、個別包装の中から取り出した、天然果汁入りだという飴をくれた。
それを受け取ったとき、早川はしのぶのやわらかい手の感触と共に、刻々と変化する女の心を感じ取ったような気がした。
「あっ、これはやっぱり合成のものとは違う、確かに天然の味わいですね」
「そうね。でも早川さんの家までは、あと何分くらいなの?」
「……あと十分くらいですよ。随分走ってきたなぁ」
「あのガソリンスタンド辺りで確かめてもらえますか?」
「住所を教えてください」
しのぶは膝の上に置いていたバッグから手帳を出して読み上げた。
それは二種類の住所だった。一方は梓川、もう一方は上野という地名で、住所表示が最近変更になったらしい。