一期一会
しのぶは云っている途中で身体の向きを変えた。
「ラーメン食べたい」
土産物の袋を持っているさえらが嬉しそうに云った。
湖全体が一望できる明るい軽食コーナーへ行った。しのぶはほかの二人に確認してからカウンターで三人分の味噌ラーメンを注文した。
その間に早川は三人分の冷水をグラスに注いでテーブルに運んだ。
「私も味噌ラーメンを食べたいなあと、思ってました」
「私は早川さんの顔をみたら食べたくなったの」
「この顔は味噌ラーメンを連想させましたか。醤油顔じゃなくて、味噌顔というわけですね」
早川は笑いながら云った。
軽食の飲食のためのスペースは、全面ガラス張りなので朝の陽射しが燦々と降り注いでいる。天井の近くには薄型液晶テレビが、朝のニュース映像を映している。漁船が転覆し、行方不明者が出たらしい。
そのニュースとは裏腹に、早川は何となく幸せな気分なのだった。
しのぶの美しい眼が早川の顔を凝視めている。さえらはその横で、ビニール包装の中のボールペンを繁々と眺めながら微笑んでいた。静かだった。幸福というのは、こんな何気ない静寂なのだと、早川は想った。