一期一会
何日か前、煙幕花火を使って巣を燻し、クロスズメバチが一時的に仮死状態となっている間に地中から巣を掘り出したのだと説明した。
余りの熱意にほだされて早川は身震いしながら皿の上に盛られたものをほんの少し口に入れてみた。素晴らしい味だった。何とも云えない美味さだった。何かに似ていると云うことができない、やみつきになること間違いない美味さだった。
その日、早川は笑顔の老夫婦に見送られてその農家をあとにした。車には収穫したばかりの野沢菜が、重さにすれば恐らく三十キログラム以上も積み込まれていた。
土産物コーナーには菓子折の類も沢山積み重ねられている。しのぶはその一つと、果汁入りの飴、そしてさえらが欲しがっていたボールペンを買った。
「すみません。杏の漬物はありませんか?」
しのぶがそう尋ねると、上品な風情の中年の販売員は、
「杏の里へいらっしゃればあるかも知れませんね。いつか行ったとき、見たような気がしますの」
「ここに入荷したことはないんですね?」
「ええ、松本辺りで探すのも手ですけど、杏の里だったら必ずあるような気がします」
「そうですか。ありがとうございました。早川さん。ラーメンを急に食べたくなったの。
付き合ってくださいね」