一期一会
「昨夜、ほろ酔いで機嫌のいい男性のお客様に乗って頂いたんです。迷路のような住宅地の一番奥の家で、運転手に住所を云っても、辿り着いたことがないと云ってました。そのお客様が寝込んでしまったんです。神様のおかげですね。詳しい地図を見てから探し回っていたら、急にお客様が眼を覚まして大喜びですよ。たまたまそのお客様の家の前で眼が覚めたんですね。それで一万円頂きました」
「地獄から抜け出して天国に着いたんですね!」
「うまいことを云いますね。それで今日はおいしいものを食べようと……ところが忍田さんがご馳走してくれた。連続のラッキーでした」
「じゃあ、わたしは天使?」
「そうですね。悪い神様が寄越した天使です」
二人で笑った。
時刻は午後十時を過ぎていた。橋を渡って暫く行くと、新興住宅地という感じになり、その前に人が二人が立っている二階建の家が見えてきた。痩せた老夫人と、もう一人は小柄で太っていた。背中に荷物を背負い、両耳にはイヤホンが入っている。モンゴル系の顔の少女が手を振りながら笑っていた。