一期一会
「あの、お客様。松御膳を二人前でよろしいでしょうか?」
「はい。それでお願いします」
そう応えたのは美人の女性客だった。
数日前に早川がここに来たときも、可愛らしい雰囲気のそのウエイトレスがオーダーを取りに来た。そのとき、少しだけ話をして早川は親しみを感じた。今日はもっと話をしたかった。だが、思わぬ邪魔が入り、制服の女性は去って行った。その後ろ姿を見送っていると、
「無神経でしたね。やっぱり、お邪魔だったみたいですね」
そう云った美女は長い髪をうしろで束ねていた。スタイルも良く、滅多に拝めない端正な顔立ちの女性である。
早川の脳内の霧の中に、女性のシルエットが浮かび上がろうとしている。それが次第に明瞭になって来そうだった。
早川はタクシーの乗務で生計をたてている。その彼が漸くその女性を想い出して笑顔になった。