一期一会
悪い神様
浮世絵の額や民芸品などが、店内の所々に飾られていた。その和食のファミリーレストランの中は、涼しいというよりは寒いくらいだった。まだ全身に汗をかいている早川学は、肌寒さに耐えながら蕎麦と天麩羅と刺身という、欲張りなメニューを注文した。目の前に立っているウエイトレスと話をしたいと、彼は思っていた。そのとき、どこからか別の可愛い声がおりてきた。そんな印象だった。
「わたしも同じのを注文します。ここ、よろしいですか?」
店の入り口の方から歩いてきた見知らぬ女性は、そう云うと、早川の眼の前の席に座ってしまった。一体どういうことなのか、早川には見当もつかなかった。
(逆ナンパ?)
「お連れ様も松御膳ですね。二人前でよろしいですか?」
ウエイトレスは相変わらずにこやかな表情のまま確認する。早川は予定が狂ってしまったと、心の中で嘆いていた。彼は好みのタイプのそのウエイトレスと、もう、ふたことみこと、世間話でもするつもりでいたのだ。そのためにわざわざ暑い中を二十分も歩いてきたのである。
「ごめんなさい。お邪魔でしたか?」
そう云った女性も、かなり魅力的だった。