一期一会
しのぶはじっと待っていた。と、思いきや、手には缶チューハイ。
「忘れ物はありませんか?」
と、しのぶ。
「乗客がおりるときは必ずそう云ってますけどね、それでも携帯を忘れる人が三箇月に一人はいますね」
早川はシートベルトを装着して車を発進させた。
「いいなあ」
早川は缶チューハイに視線を送った。
「ごめんなさい。待ってるのが嫌いで……氷と一緒に、クーラーボックスにあと九本入ってます」
「明後日の夜にでも、一本頂こうかな」
「コンビニで買って氷を補充しますね。明後日の朝にでも」
理想の車だった。発進、停止の際、車体の姿勢が崩れない。カーブを曲がるときも車体が傾かない。変速のショックもないし勿論、加速性能は申し分ない。電動シートを時々動かしてみた。かなり微妙な動きができるので理想のポジションを模索し、選択できる。動かしてみるとこれは必需品だと思うが、どの程度普及しているのだろうかと、早川は思う。