-苑子〔そのこ〕-
苑子は本来とても陽気で社交家だったのだが、両親がいなくなってからというもの、外部との接触もほとんど持たず、ひたすらひっそりと闇に閉じこもるように過ごしている。
そのせいなのか、この所 苑子はよく悪夢にうなされるようになった。
つい最近見たのは、苑子が枯れた花壇に花を植えようと土を耕していると、中から白骨が出てくる夢だった。驚いて、思わずあげた自分の悲鳴で目が覚めた。
その少し前に見たのは、両親が土の中で「苦しいよー、暗いよー」と悲しい声を上げている夢だった。
そしてその前は、苑子自身がシャベルを手に、花壇を必死の形相で掘り起こしている夢だった。
「どうしてなんだろう。どうしてこんな夢をみるんだろう」
苑子は理由が分からず、毎日思い悩む日が続いた。
そんなある日、また苑子は夢を見た。
夢には両親が現れて、自分を指差し、
「苑子、お前が…… お前がーー!」と、恨みと怖れの入り混じった表情で叫んでいた。
「ああああーー!」
そう叫ぶと同時に、苑子は記憶が蘇るのを感じた。
その日は、両親が行方知れずになった日だった。
「そうだった。そうだったんだ。私が、お父様とお母様を……」
思わず苑子は自分の手で顔を覆い、床に跪くと、
「ぅわぁーーー!」と、悲鳴にも似た、鋭く細い狂気の声を上げた。
「私が、私が……」
そう呟きながら立ち上がると、そのまま裸足で花壇へ向かい、素手で土をそっと撫でた。
「ここに、お父様とお母様を……」
苑子の記憶の中では、自分が大きな鉈をふるい、それを父と母へと振り下ろしていた。
二人は花壇の前で頭から血を流し、顔を真っ赤に染めながら、信じられないものを見るような目で苑子を見つめ、そしてそのままバッタリと倒れてしまった。
苑子は、光の宿らない虚ろな瞳と大理石のような硬質な表情で、ゆっくりと花壇脇の倉庫からシャベルを持ち出してくると、ひたすら穴を掘り、そして二人を埋めた。