-苑子〔そのこ〕-
「どうして、どうして私が?」
苑子はかぶりを振った。
「そんな、そんなはずはない。私がそんなことをするはずがない!」
頭の中で二人の苑子が争っていた。
「いやぁーー!」
苑子は頭が割れるように痛み、叫びと共にバタッと倒れた。
しばらくして目覚めた苑子は、自分がどうして花壇で倒れていたのかわからなかった。
苑子は自分の記憶を自分で抹消していることに気付いていなかった。
ぼうっとした足取りで部屋に入り、お気に入りのロッキングチェアに揺られながら
「お父様、お母様、早く帰ってきて。私を一人で放っとかないで」
そう呟きながら、窓の外に見える遠い空に祈った。
そしてまた一年後、同じように夢を見、そしてまた夢や記憶を消し、また次の年がやってきて同じことが繰り返されたが、その後まもなく、突然苑子の耳に父親の声が聞こえた。
「苑子、お前はおかしい。狂っている。病院へ行こう」
「イヤよ! お父様、私はおかしくなんてない。狂ってなんかいないわ!」
そう言うと苑子は、唇を片方だけ歪めてふふっと笑った。