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鬼城 地球
鬼城 地球
novelistID. 15205
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L.H.B.  ~Left Hand is Black~

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 昨日より遅い時間、僕は二日前に来た大雨で増水して濁っている川の上に位置する橋にいた。

 あのあと昨日の会話を録音していた政義さんに頼みあの声を解析してもらったところ、僕の悪い予想は当たってしまった。

 笛吹き男は、なぜ彼でなければいけなかったのか……僕の頭にはそれしかなかった。

「仙ちゃん、橋に向かってる」
「ちゃんと数えたところ、今日で百二十九人になった……仙ちゃん」
「最後は僕ってことかな……」

 現在、パレードは百二十九人……予告の百三十人まであと一人。その一人に加わったら、きっと参加者もろとも僕は死ぬことになる。

 それを阻止するのが僕であり、【黒い左手】だ。

「……お前もまだ暴れたりないだろ?」

 そう左手に話しかけるように左手を動かすとパキッと木の枝のように乾いた音がした。

 数分後……

 笛吹き男を先頭としたパレードが橋の向こうから現れた。
笛吹き男は昨日に引き続き会うのは二回目だが、パレードを見るのは初めてだった。

 パレードには老若男女、いろいろな人が笛吹き男のように踊っているわけではなくただ笛吹き男の後に続いている、行進と言っても過言ではなかった。

 そして、橋にさしかかると笛吹き男は先導をやめパレードを川の堤防へ移動させ止めた。
そして、笛吹き男自身は僕の方へやってくる。

「マタ会ったネ」
「ああ、随分人は集まったみだいだね」
「百二十九人……あと一人なんダ、足りなくて困ッテル最後の一人は君ガヤラない?」
「……断るって言ったら?」
「わかっテルくせに」

 そう笛吹き男が笑ったのを期に僕は左手を笛吹き男に向けてかざし、風を操り突風を向けた。
笛吹き男は吹っ飛ばされたがダメージを与えたわけではなかった。

「ちょっとラシクないけど、物理攻撃デいかせてモラウヨ」

 そういうと、笛吹き男は笛の節の部分を外し笛の一部からは鋭い刃をだした。それを見るや否や笛吹き男は攻撃をしかけてきた。
あまりに突然の攻撃だったので刃をかすめてよけるので精いっぱいだった。

「っう……本当にらしくないな……それは、お前の意思なのか? 笛吹き男」
「何ダと?」
「とぼけるな……お前自体はなんの実体もない伝説……僕が話かけてるのは中身だ、答えろ」
「……仙ちゃん」

 仮面から聞こえたのは、昨日聞いた笛吹き男の本当の声と同じ声……

その主は、瀬崎 悠介。

「仙ちゃん」
「悠介……どうして? どうして悠介がこんなことをすることになったんだ? 頼むよ、悠介の意思じゃないんだろ?」
「仙ちゃん……俺はこの世界が嫌いだ」
「悠介?」

 僕は悠介の言葉に衝撃をうけ、願っていたことをぶち壊された。
悠介のその言葉は昨日笛吹き男から聞いた言葉と同じだった。


つまり、この出来事は悠介自身が望んでできているということだった。


「現実は、俺を冷たく突き放す……仙ちゃん、仙ちゃんも同じで両親いないけどよ……俺は両親の顔すら知らない! 心ある人間が捨て猫みたいになってみろよ、現実世界は俺を格下にしか見なくなるんだ」
「悠介……」
「俺は現実が嫌いだ……現実は辛く冷たい……俺が救われてきたのは非現実の存在、つまり【ハーメルンの笛吹き男】の存在……彼の力を借りて俺は現実をぶち壊したい」
「悠介、今悠介が言ってることは本当にめちゃくちゃだ! お前は現実から逃げてる! この世界が現実でできている以上、非現実はそれらしく振る舞わなければならない……僕の左手見てみろ! ちゃんと現実らしく振る舞ってるだろ!」

 僕は、悠介に左手の白い手袋をさした。

「振る舞えるものは振る舞えるのさ、俺の心はフェイクなんて無理に決まってる、選択肢は二つ俺が現実に殺されるか、俺が非現実で現実を殺すかだ」
「悠介……」
「仙ちゃん、何年も一緒にいるならわかるよな? 心のままに生きるのが俺なんだ……俺は今二つの選択肢の現実を殺す方をとった……」
「でも、悠介それは……」
「仙ちゃん、仙ちゃんにはもうわからないよ……仙ちゃんは非現実を手に入れた瞬間から現実らしく振る舞おうと自分を殺してった……その左手の白い手袋のように」

 そして、悠介はまた刃を僕に向けた。
僕はその刃の冷たさを別に攻撃を受けたわけではないが、感じていた。

 悠介、現実に沿って振る舞えないなんて嘘だろ? だって、俺に笑顔で振る舞っていた裏にその考えがあったなら……
あの笑顔はフェイクじゃないの? いつも僕といっしょにいて、楽しませてくれた悠介はフェイクじゃないの?


 悠介、本当のお前はどこにいるの?


「決着ダ」
「……」

 僕は、何も考えず左手の手袋に手をかけた……
そして、その白い布の下から現れたのは、丸焦げに焼け炭素化した、僕の左手……【黒い左手】だ。

「出しタネ、本物を……」
「今からはかつての非現実と非現実だけど現実に生きる非現実との最後の戦いだ……【ハーメルンの笛吹き男】はかつての非現実、伝説でしかない……そんなものに現実と共に生きてる非現実【黒い手】は負けない」

 炭素化した手が現実に動くはずがない、そう僕の左手は非現実だ。
ただし、現実に生きている。

 僕は、その左手を悠介……いや、笛吹き男に向けた。

「行くよ」
「望む所ダ!」

 僕の左手は冒頭であがったように【万物を操る力】が宿っている。
その力で突風で笛吹き男を吹きとばしたり大雨を降らせ笛吹き男の行く手を阻み、それでも刃が届くときは、左手から熱をだし柄を曲げて使い物にさせず、ついには笛吹き男とは殴り合いになっていた。

「小癪な左手メ!」
「諦め悪いのもどうかな!」

 数分後、僕が笛吹き男に一発与えたところで笛吹き男の動きが止まった。

「どうだ、これが差だ! 悠介、非現実に走ろうともお前は結局現実にいた時と同じだ! お前の運命は変えられない、だけどそれになんとか逆らって現実に生きるんだ、現実のその差すら越えられないものなら、この世にいる意味なんてない!」

 その言葉にビクッと体が反応した悠介。

 心に届いたと、安心して悠介の目を仮面の間から見た……
だがその時の悠介の目の色は、生きる気力をなくした人間が見せるようなそれに似ていた。

「そうか……じゃあ、俺はもう生きる価値なんてないな」
「え?」

 そして、次の瞬間悠介は柄が曲がった刃を自分の心臓へ突き刺していた。

「悠介!!」

 どっとあふれていく悠介の血は、一瞬のうちにして橋の中心を赤く染めた。

「馬鹿! なんで、こんな!」
「仙ちゃんが言ったじゃないか、現実のその差すら越えられないものなら、この世にいる意味なんてないって」
「お前は、自分自身を変えようっていう心がないのか!? 悠介、駄目だ! まだ、まだこの先どんなにつらくても楽しくないことが全くないわけじゃない! 悠介、僕といる時間は楽しくなかった? あんなに笑ってるのに楽しくなかった?」
「……んな、わけ……ないだろ……楽しかった」