L.H.B. ~Left Hand is Black~
「仙ちゃん、今日はちょっと帰りが遅くなるから」
「え? 伸太郎さん、また事件なら僕も行くよ」
「俺も連れて行きたいところが、お前は受験勉強に専念しなさい」
「うん、伸太郎さんの言うこと聞いた方がいいと思うよ」
「神奈、そういうわけだから見張り頼むな」
「了解!」
「え、ええー」
事件だというのに呼ばれないというのは、凄くもどかしかった。
ああ、これが刑事ドラマで「俺を派遣してください」って言って上司に拒否される下っ端の気持ちなんだなと思った。
そう思考を張り巡らしながら、朝刊を読みどんな事件があったのか見ていた。
「もしかして……この事件か?」
「あ、お兄ちゃん! 新聞読んじゃだめー!」
「なんでだよ……新聞読んでるだけだろ?」
「お兄ちゃんが新聞読むときは、事件が起きた時だけしか読まないもん! それも捜査と同じだからだめ!」
わ、我が妹ながら鋭いことを言ったと思う。
勿論、これも褒めた意味で言った。
「わかったよ、でも神奈……これ見てみな」
「何? あ、この美術館って!」
「昨日僕達の行った美術館だ……美術館の【伝説展示会】で展示されてた二点が盗まれたらしい」
「何が盗まれたんだろう……確かに高そうな値段が付きそうなのはたくさんあったけど」
「【ハーメルンの笛吹き男】の笛と仮面だって」
「え? それって悠介さんが立ち止まって見てたお面と笛じゃなかった?」
「あんまり高価なものには見えなかったんだけどなぁ……」
やっぱり、悠介みたいなアーティストじゃないと本当の価値はわからない物なのかな? と思った。
その日、僕は結局伸太郎さんからお呼びはかからず家でひたすら勉強するしかなかった……夜になっても、それは同じだった。
「ふぁっ、そろそろ寝るかな……」
夜、深夜十二時を少し過ぎたころ僕は勉強をキリよく終わり寝ようとしていた。
その時、微かに遠くで笛の音がしたように聞こえた。何かを先導するような笛の音だった気がする。
「なんだろう?」
気になって窓を開けて耳を澄ませたが、さっきほどはっきりと聞こえず今は下を通る車の音に掻き消されていた。
「気のせいかな……」
そう思って、窓を閉めようとした時上から一枚の紙が落ちてきた。
僕はそれを取って上を見てみたが、誰もいなかった。
「【パレードに百三十人が参加した時、参加者は全員死す】……なんだ、これ」
紙にはそう書いてあっただけでいたずらかと思って丸めて捨てようとしたけど、なんとなく勘が働いて紙を捨てずに机の上に置いた。
「まぁいいや、明日捨てよう……」
作品名:L.H.B. ~Left Hand is Black~ 作家名:鬼城 地球