戦友に捧げるブルース
私は夢中で近くの窪みへと駆けた。その判断とわずかな時間、そして運が生死を分けたのだろう。窪みから這い出た時、動く者はいなかった。残ったのは死体と瓦礫の山だった。
その瓦礫の山が突然崩れた。何とそこから久保田が這い出てきたのである。久保田とは同期の桜であり、特に親しくしてきた間柄だった。
「おお、久保田! 生きていたか!」
「おお、笹本! 貴様もよく無事だったな!」
私たちはお互い抱き合い、生きていることを実感し合うように抱き合った。しかしこの時、私たちの小隊は二人きりになってしまったのだ。それはどこに所属しているかもわからない、指令系統さえも曖昧な軍人二人であり、とても組織と呼べるような代物ではなかった。
私と久保田は仕方なく友軍を探し求めることにした。しかしどこに友軍がいるかさえわからない。無線も地図も吹き飛んでしまった。もっとも、友軍の情勢が悪化していたこの時期、昨日まであった基地が今日あるとは限らない。私たちが先程までいた基地のように。
私と久保田はこうしてフィリピンの野山を彷徨うことになったのである。
友軍を探すと言っても広い川原でマッチ棒を一本探すようなものだった。ただ、途方に暮れそうになる、お互いの感情を慰め合いながら私と久保田は足が棒のようになるまで歩いたのだ。
フィリピンの山はなだらかで、女性的な稜線のラインとは裏腹に、意外と懐が深く、生い茂る熱帯植物を掻き分けながら、何度も山を登っては下った。
幾つ丘陵を越えた時だっただろう。突然、視界が開けた。そこに僅かな平原とみすぼらしい小屋が見えた。粗末ながらも畑もある。小屋の横にそびえるバナナの木が立派だった。
「畑だ。きっとイモか何かあるぜ」
久保田の瞳が輝いた。
「しかし、ここの住人の畑だろう」
「構うもんか。戴こうぜ!」
確かにこの時、私たちの空腹は極限にまで達しようとしていた。瓦礫と化した基地から乾パンは、かろうじて掻き集めてきたが、それも底を尽きていたのだ。既に私たちは苦い草の根で飢えをしのいでいた。
久保田が畑を穿り返す。私も後に続いた。彼一人、悪者にする気にはなれなかったのだ。
畑に植わっていたのは痩せたイモだった。それでもその時の私たちには有り難い食料だった。
私と久保田は火を起こしてイモを焼いて食べた。味などしない、ただ空腹を満たすだけの食料だった。
作品名:戦友に捧げるブルース 作家名:栗原 峰幸