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『喧嘩百景』第6話成瀬薫VS緒方竜

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 過去、唯一、日栄一賀を心停止にまで追い込んだという二人は、中学時代から日栄一賀に付き従って、彼に仕掛けられた喧嘩を片っ端から片付けてきた。
 「過保護やなぁ」
 竜は溜息をこぼした。
 「緒方さんは何でそんなにこだわるんです」
 二人にしてみれば、全くその気のない薫と、ようやく大人しくなってくれた一賀の実力の優劣など、興味のない問題だった。
 「俺はなぁ、やってもみんうちから結果を決めつけられるんが嫌なんや」
 「でも」
と、言いかけてから浩己は口を閉ざした。
 「でも何や」
 しまった、というような表情の浩己を竜が睨み付ける。
 浩己は怒鳴られるのを覚悟で言葉を続けた。
 「緒方さんだってもう判ってるんでしょ、結果は」
 「銀狐(ぎんぎつね)――」
竜は浩己の胸ぐらを掴んで引き寄せた。
「人の頭ん中、覗くんやないで」
 銀狐――裕紀と浩己は精神感応力者(テレパス)だった。言葉の形にして伝え合うことができるのは互いの思考のみだったが、しかし、共感(エンパシー)と呼ばれるその力は人の心の動きを敏感に感じていた。
 「緒方さん」
裕紀はやんわりと竜の腕を押さえた。
「あの人、ここに傷があるんですよ」
と、溜息混じりに自分の胸を指差して見せる。
 竜は怪訝な顔で浩己を放してやった。
 「何や、心臓でも悪いんかいな」
 日栄一賀が喘息持ちだというのは有名な話だが、成瀬薫の身体が悪いなんて言う話は聞いたこともない。
 「そうじゃなくて」
と、双子はまた顔を見合わせた。
「俺たちじゃあ詳しいことは解りませんけど、あの人、昔、何かあったんでしょう?傷があるんですよ、ここにね」
 もう一度とんとんと胸を叩く。
 傷――精神的な、か。
 ――鬱陶しいやっちゃで、ほんま。成瀬薫も銀狐も。
 「昔、何があったんや?」
 諦め半分に竜は訊いてみた。
 二人は同じ様な仕草で首を竦めた。
 「俺たちは知りませんよ。知っているとすれば、彩子さんくらいじゃないですか」
 内藤彩子――か。
 はああ、と、竜は溜息を吐き出した。

★          ★

 閉店間際に佐々克紀(さつさかつき)は現れた。
 「こんばんは。成瀬先輩」