気紛れな相談屋のようです 第一話「憎悪的ラブレス」
「お、おい…あんた」
「ええっ!?アイスコーヒー嫌いなんですか!?ううむ、困ったなあ、もう頼んじゃったじゃないですか」
「あ、ああ。いや、そんなことより」
「ああ!そうですよね、アイスコーヒーなんかよりも大切な事がありました!自己紹介がまだでした。僕はこういう者です」
そう言って差し出した名刺には
『星田和也』
と名前だけが書いてあった。
「あ、ああ。どうも」
「あなたの名前は?自己紹介は互いに行って初めて意味を成します。それともあなた、宗教上の理由で自己紹介出来ない人種の方ですか?」
「…小林だ」
星田の勢いに着いていけず、小林は苛立ちを覚えながらも答えた。
「小林さんね、なんて平凡な名前だ!」
ははは、と笑う星田。その態度にとうとう我慢出来なくなったのか小林が立ち上がった。
「いい加減にしろ!からかっているのか!」
静かな店内にその怒号が響く。数名居た他の客や女給も何事かと小林の方へ目を向けている。
「は?」
一拍置いて星田が頓狂な声を出した。
「俺は真剣に困っているんだ!」
怒りか焦りか、そのどちらが原因か分からないが、小林の声は情けないほどに裏返っていた。
「知りませんよ、まだ詳しい話を聞いてないんですから。あ、コーヒーがきました。ここのコーヒーは旨いんです」
頬杖を突き、退屈そうに小林の話を聞いていた星田はつまらなそうに答える。そんな中、注文していたコーヒーが届いたことによって星田の顔がパアッと明るくなる。ころころと表情が変わる男だ。
「てめえ…」
「物事には順序があります。あなたが何を困っているのか、それを漸く、今から伺うんですよ。あまり先走らないでください」
ストローでコーヒーを啜りながら星田が答える。
「…」
なんとも度し難い人物である。
「さあ、話してください。呪われているとかなんとか言ってましたね」
「ああ…」
「詳しく聞かせてもらえますか」
小林の話をまとめると、自分には付き合っている人が居たが、喧嘩をして自分はふられてしまった。その数日後、彼女は自殺。それ以降、小林の周りでは様々な恐ろしい出来事が起き、高名な僧を尋ねたりもしたものの解決しなかった。もうここしか頼れるところがない、ということらしい。
「ふむ」
うつむきながら話す小林とは対照的に、星田はふんぞり返って、スマートフォンをいじりながら話を聞いている。
作品名:気紛れな相談屋のようです 第一話「憎悪的ラブレス」 作家名:ティオ