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【創作BL】青いシャツとネクタイの話

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「先輩、この後時間空いてますか?」
「あ、そうだ……! わり。今日早く帰んなきゃなんだわ。家族でじいちゃんの見舞いに行く予定でさ。部も休んできたんだよ」

だからこんな早い時間に一人で出てきたのかと合点がいった。

「それなら、また今度遊んでください」
「あ、じゃあアドレス教えろよ! 俺やっと携帯買ったんだー!」

タクミは上機嫌で鞄をゴソゴソと漁り、真新しい携帯電話を取り出す。

「やっとっすか」
「だってべつに欲しくなかったし。でもじいちゃん入院したからさ、なんかあったらすぐ知らせくるようにって」

タクミは変わらない明るい口ぶりでそう話す。

「結構……あれなんすか」
「いや、たいしたことないらしい。でも後悔したらやだしさ」

何と言えば良いのかわからず返事をしあぐねていると、ソウスケは自分でも気づかないうちに表情を曇らせていたようで、急に頭をくしゃくしゃと撫でられた。

「大丈夫だから、お前がそんな顔すんなよ」

タクミの微笑みと背伸びしたつま先を見て無性にたまらなくなったソウスケは、唇を噛みしめながらタクミの携帯を奪った。

「俺、やっとくんで」
「おお、助かる!」

自分の携帯も取り出し、慣れた手つきで赤外線を送り合う。
そのスピードにタクミは素直に感心していた。

「はえー! 慣れてんな。さすが」
「これくらい普通っすよ」
「そうやって熟女落としてんの?」
「熟女って……べつに年上キラーじゃないっすから」
「うそつけー」

そんな風にタクミにからかわれながら連絡先を交換し終え、携帯を返す。

「連絡するんで」
「おう。他の奴にも教えといて」
「気が向いたら」
「何だよ、ちゃんとまわしとけよ!」

小さい体で腕をぶんぶん振り回す姿がおかしい。
ソウスケが観念して頷くと、タクミは満足気に微笑んだ。

「じゃ、またな!」

濃く滲んだ青色の背中を見送りながら、引き止めてしまい悪いことをしたなとソウスケは思った。
しかしその一方で、心は鮮明に色づいていた。



その晩、ソウスケは交換したての電話番号へ思いきってかけた。

どきどきしながら六コールを数えると、やっと電話が繋がる。

「もしもし?」
「もしもし先輩?」
「おおっソウスケ! お前さっそくだなー」
「……迷惑でした?」
「いや嬉しいよ」

その返事に安堵し、ソウスケは会話を続ける。

「おじいさんの具合どうでした?」
「全然元気! 超元気! 正直拍子抜けした」
「そっすか」

ソウスケはなんとなく気恥ずかしくて「良かったです」という言葉を言えなかったのだが、タクミはそれを察したかのように、ソウスケに「うん。サンキュ」とお礼を言った。

「お前は好きな子会えた?」
「会えましたよ」
「おおっー良かったじゃん! 会えるもんなんだな。どんくらいかかった?」
「いや、わりとすぐ。もっとかかると思ってたんすけど、タイミング良くて。しかも絶対誰かと一緒だと思ってたのに、あっちも一人で……」
「運良いじゃん! つうか運命だったりして?」
「……っすね」

自分には到底縁のなかった言葉に、思わず声がかすれる。

「うわっ照れてる!? お前案外素直なとこあるよな。恥ずかしー奴!」

タクミの言う通り、自分の恥ずかしさを実感して顔が熱くなった。
こんな風になってしまった自分が意外で、なんて言葉を返したら良いのかわからなくなり、口をつぐむ。

「おい、電話なんだから黙んなよー! べつに誰にも言わねーから」
「……っす」

ソウスケが控えめに頷くと、タクミの「よしっ!」という声が響いた。
電話の向こうでタクミがどんな顔をしているかがソウスケには簡単にわかった。

「で、そんな照れちゃうほどお前が好きな子って誰?」
「タクミ先輩」
「俺かよ! つうか誤魔化すなよー!」

タクミはいつも通りケラケラと笑う。

「どんな感じの子?」
「……バカで小さくてうるさくて、すぐ手が出ますね」
「えっ、なにそれ怖くね? 褒めるとこは?」
「……優しいっすよ。あと、すげー可愛い……」

そう言いながらソウスケは自身の目を手で覆い隠していた。
自分で言っておいてなんだが、照れざるをえない。

「おっやっぱりな! お前メンクイっぽいもんな。誰似?」
「いや、そういうのは……」
「えーじゃあどういうとこが可愛いの?」

可愛いと思うところはもう既に挙げていた。もっと詳しく言っても良かったのだが、おそらくタクミには伝わらないことがわかっていた。

何を言おうかと考えていると、閉ざされた視界に爽やかな青色が浮かびあがる。

「制服姿……すげー可愛かったすね……。青シャツにネクタイなとこ初めて見たんで、良かったっす……」
「わかる! やっぱ西高の制服可愛いよな! 青シャツだから夏場だと汗染みが目立つのがマニア人気高いんだって。オタクな奴が言ってた」

見つけたときと去り際の背中を思い出す。
瞳に焼ついた青色が、少しだけ濃く色づいた。

「夏っていえば、先輩は夏休みやっぱり部活っすか?」
「うん、わりと毎日。夏休みなのにさあー。そっちも相変わらずだろ?」
「そっすね。そんな感じです」
「じゃーなかなか遊べねーな」
「予定わかったら教えてください」
「おう!久しぶりにみんなに会いてーしな」

そんなことを喋りながら、ほんの十五分ほどで通話を終えた。

もう繋がっていない携帯を愛おしく握りしめながら、ソウスケは自身のベッドに勢いよく身を任せる。
浅く息を吸い、深く長く吐き出す。
少しずつ火照りが落ち着いてきて体が楽になってきた。

「もっと早く行きゃあ良かった……」

携帯のアドレス帳を開き、今日入りたての名前を見ながらふっと笑う。

そうしていると突然画面が切り替わり携帯が振動した。
着信名を確認し、慌てて耳元にあてる。

「もしもし!」
「お、ソウスケー? 度々わりーな」
「全然!」

食い入るように返事をする。
向こうから早く連絡がこないかとは考えていたが、こんなにすぐにくるとは思わなかった。

「や、電話切ってから気づいてさ。本当にそうかわかんないし言うか迷ったんだけど……言っといた方が良いかなって」

いつになく含みのあるタクミの言い方に、ソウスケは戸惑いを感じていた。

「……なんすか?」
「あのさ……」

タクミの勿体ぶった声が耳に届き体が強張る。
伝わらないと思っていたことが伝わったのかもしれないと、焦りや期待が交錯する。

「西高の女子制服って、ネクタイじゃなくてリボンだぞ」
「………………えっと……?」
「あ、わかってないな! さっきお前ネクタイ姿が可愛いって言っただろ? それってつまりさ、その女子が彼氏のネクタイつけてるってことなんだよ! 西高の女子の一部ではそういうのが流行ってんの。だからお前の好きな子、たぶん彼氏いるぞ?」
「……ああ、そんなことっすか」

当てが見事に外れてソウスケはうなだれる。
今まで何度ストレートに言っても伝わらなかったのだから、今更どうこうなるわけないとわかっていたはずなのに。今日会えたことで欲目が出ていたのかもしれないと、溜息が漏れる。

「もしかして知ってた!? それなのに校門前で待ってるって、お前超肉食だな!」