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【創作BL】青いシャツとネクタイの話

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東中から最寄駅までは徒歩二十分。
そこから電車に揺られること三十分。
駅に着いた後迷いながら徒歩十分。

計一時間をかけて、ソウスケはやっと目的地である西高の校門前に辿り着いた。

「ここか……」

守衛などが居ないことを確かめてから、目立ちにくい場所にある木陰を陣取る。
門壁に背中を預けるとじわりと自身の汗を感じ気持ちが悪かったが、同時に熱が逃げていくのもわかったので、そのまま寄りかかることにした。

直射日光にギラギラと照らされている入口前の道をぼんやり眺めていると、しばらくして校舎の方から鐘が鳴り響いた。じょじょに辺りが騒がしくなっていき、目線の先に西高の生徒が通るようになる。
帰宅していく西高生の中にはソウスケに気づいた者もちらほらいた。彼らは見慣れない制服を着たソウスケをジロジロと気にしたが、とくに話しかけるでもなく通り過ぎていった。

青いシャツにチェック柄のズボンやスカートという洒落た制服姿を見つめる。

そんな光景が数分間続いたところで、青いシャツが普通よりも少しだけ濃く色づいている小さな背中を見つけた。
ソウスケはその見覚えある後ろ姿に向かって声をかける。

「タクミ先輩!」
「えっ?」

小さな背中の男が振り向く。

「おおっ!? ソウスケじゃん!」
「ども」

ソウスケが軽く頭を下げると、男はネクタイを揺らしながら一目散に駆け寄って来た。
男の名前はタクミ。去年東中を卒業したソウスケと同じ部の先輩だ。

タクミはソウスケに向かって人懐っこく笑った。日差しが眩しいほどにタクミを照らす。

「久しぶり! 元気にやってっか?」
「ぼちぼちっす。先輩背伸びましたね」
「わかる!? 高校入ってから三ヶ月で三センチも伸びたんだよ!」
「中学じゃ三年間で三センチっすもんね」
「うるせー!」

タクミは騒ぎながらソウスケの肩に軽めのパンチをおみまいする。
「お前だってまたでかくなったんじゃねーの?」と訊かれたので頷くと、タクミは恨めしそうにいっそうソウスケへとじゃれついた。

ソウスケはとくに口にはしなかったが、タクミは背が伸びただけではなく体つきも良くなっているのがわかった。
それでもタクミはソウスケよりもずっと小さいし細いのだが。

「で、何でこんなとこいんの?」
「タクミ先輩に会いに」
「見え見えの嘘ついてんじゃねーよ!」

タクミは肘でソウスケを小突きながらケラケラと笑う。

「誰かと待ち合わせ?」
「いや、待ち合わせてはないっすけど……」
「もしかして彼女待ってるとか?」
「まあ彼女ではないけど……好きな人を」
「マジかよ!」

冗談のつもりで言ったらしく、タクミは驚きの声をあげた。

「お前ってやっぱ年上キラーなんだな」
「俺そんなイメージなんすか?」
「前も先輩狙いだったって聞いたからさ。あ、相手は誰か知んねーけど」

好きな人のことを部の友達に問いつめられて一度だけ言ったことがある。といっても「先輩」という二文字だけ。
そこから中学生男子達の想像力が一人歩きして、ソウスケはすっかり年上キラーというキャラになっていた。

「タクミ先輩、彼女とか好きな人は?」
「聞くなよ! どうせいねーよ」
「じゃ、俺がなりますよ」
「お前俺のことなめすぎだろ!」

さきほどとは逆の肩をパンチされながら、ソウスケは笑う。

中学のときからソウスケはなにかとタクミに絡んでいた。いじるとギャーギャー騒いだり笑う姿が玩具のようで面白かったのだ。ソウスケだけじゃなく、タクミは後輩からは軒並み好かれていた。いつも周りに人が絶えなかった。

三ヶ月ぶりに会うタクミだが、中身はまるで変わっていないようでソウスケは安心していた。伸びた背と締まった体を見たときはちょっと動揺したのだ。

それから制服姿。
海の色に似た青いシャツ、それよりだいぶ暗く落ち着いた青いチェック柄のズボン、開いた襟元からだらっとぶら下がるネクタイ。
中学時代の黒い学ラン姿から鮮やかに色づいた青は、タクミの明るさにとても似合っていた。

「何?」

じっと見つめていると、ソウスケとタクミの目が合う。

「……や、西高の制服って良いっすね」
「かっこいいだろ? 今もう夏服だから上着てねーけど、ブレザーがまたいけてんだー!」
「高校では絶対ブレザー着るって言って猛勉強してましたもんね」
「そうそう。学ランに良い思い出ねーし」
「そうっすね。俺もかな」
「最初に作った学ラン、すぐ着られなくなったもんなーお前!」

そうニヤニヤ笑われたので、「先輩は三年間ずっとブカブカでしたよね」と本当のことを言うと、ソウスケはまた小突かれた。

「今年受験だろ? お前も西高来いよ。ブレザー良いぞー!」
「そのつもりっす」
「あ、好きな子もいるんだもんな! 最高じゃん」
「駅から十分歩くのはちょっとメンドイっすけどね」
「慣れれば五分で行けるって」
通えるようになったら近道教えてやるよとタクミは笑った。

笑ったり騒いだりすぐ手を出したり、相変わらず忙しい人だ。それが懐かしくて心地良い。
会えなかった三か月間はすごく長く感じたのに、こうやって話すと、毎日顔を合わせていた頃が昨日のことのように思い出せた。