三剣の邂逅
クローブがとっさに手を伸ばすと、それは、なかなか精巧なつくりの短剣だった。
「これは?」
目当てのパンを探し当てたライアに尋ねる。
「あっ、それは出かける時、護身用に持って来たの。父さんのものだと思うんだけど」
「へー」
ライアの言葉を受けながら、クローブは手元の短剣をまじまじと眺めた。
古そうだが、なかなか価値のある代物のようだ。剣の柄に施された細工は素人目にもなかなか精巧で、中央には何か紋のようなものが刻まれ、綺麗な蒼い石までついている。実用面よりもインテリアとしての色合いが濃いもののように思えるほど立派なものだ。何より、高く売れそうである。
「お礼はこっちでもいいぞ」
冗談交じりで言ったクローブの手から、ライアは半ば奪い取るように短剣を戻した。
「これはダメ。父さんの大事な形見なんだから」
「冗談だよ、冗談」
本気で膨れているライアの手からパンを受け取ると、クローブはそれにかじりついた。
「だがなぁ、ライアの父親って農民なんだろ。なんでそんなもの持ってるんだ?」
「さぁ、よくわからない。私も今回初めて見たから。何か護身用のものと思って勝手に持って来たの。でも、言われてみれば確かにそうね。帰ったら母さんに聞いてみようかな」
ライアは、最後の方は独り言のように呟き、クローブもそれ以上聞かなかった。
「待てよ」
クローブは、食べかけていたパンの手を止めてライアに向き直った。
「そんな剣を持っていたのに、襲われた時、使った形跡がなかったな」
「そんなの無理よ。襲われたの突然だったし、鞄から剣を出してる余裕なんてないわ」
「そりゃわかるが、だったら護身用の意味ないんじゃないか?」
「それは……」
言葉に詰まってしまったライアを、クローブは面白そうに見て、笑った。
またからかわれたのだとわかったライアが、頬をふくらましてクローブを睨む。
「怒るなよ、冗談の通じない奴だな」
そう言って、また笑う。
ふざけてはいるが、悪意の欠片も感じさせない不思議な雰囲気の男だとライアは思った。
薄暗い森の中、ひょんなことから得た、ひとときの旅の仲間の隣で、ライアも硬くなったパンに口をつけた。