三剣の邂逅
カーターが、自分に体を預けていた国王の胸に、深々と短剣を突き刺したのだ。
「ぐっ……!」
聞き取れないほどのか細いうめきを最後に、王の体は動かなくなった。致命傷だった。
「何を! どういうつもり?」
叫んだのはフレシアだった。滴り落ちる鮮血に我が身をも紅蓮に染め上げながら、カーターがうっすらと笑みを浮かべた。
「王と私は、生きているべきではないんです。生きていたら、一生あなたたちの憎しみが消えることはない。でも、フレシア殿、ランディ、ライア、それにクリス。あなたたちに殺させることはできない。そんな罪を犯させたら、あの世の友、クラークとイアンに申し訳が立ちませんからね」
あれほど憎んでいたはずの父たちを、急に「友」と呼び出したカーターを、その場にいる誰もが怪訝そうに見つめたが、カーターは構わず言葉を続ける。
「この罪を背負うのは、あのような最低のことをした私こそがふさわしいのです。フレシア殿やクリスの犯してしまった罪も、そもそもは私に原因があります。どうか大王様には、すべての犯人がこの私であるとお伝えください」
笑顔で大王の片腕に頭を下げる。
そして、実に晴れ晴れとした顔で、ライアたちの方に両手を広げたのだ。
「さあ、皆で私を討ちなさい。すべての罪は私があの世に持って行きます。未練の残らぬよう、その手で終止符を打つのです」
ライアは身震いした。先程は罪を犯すなといい、今度は自分を殺せと言う。
「気でも狂ったか?」
クローブの言葉の通り、カーターの言動は、そうとしか思えないほど常軌を逸していた。
カーターは、虚ろにも見える表情のまま、さらに一歩進み出た。
皆が躊躇する中、とうとうフレシアが拳を握り締めた。
「裏切り者がいい度胸だ。望みどおりあの世へ送ってやる!」
再び小刀を握り締めると、カーターめがけて、勢いよく突っ込んだ。
「母さん!」
「だめだ!」
ライアとランディが渾身の力を込めて叫んだが、次の瞬間、フレシアに突き倒される形で、カーターが倒れこんだ。
仰向けに横たわったカーターの上で、大きく肩で息をしているフレシアが身を起こす。
(間に合わなかった……)
あまりにも突然の出来事に、ライアの瞳から、大粒の涙が溢れ出した。
最後の最後で、母が人の命をその手で奪うのを止められなかった。そのままその場にへたり込みそうになったライアの体を、クローブが腕を掴んで引き上げた。
「見ろ」
クローブがカーターの方を指差した。
ライアが恐る恐る視線を向けると、母の切っ先を受けたはずのカーターが顔を歪めながらも、ゆっくりと身を起こすのが目に入った。
カシャーン。
カーターの動きに合わせて、何かが床に転がり落ちた。それは、彼がライアから取り上げ、その後ずっと胸に潜ませていた、クラーク=フレノールの短剣だった。
「!」
それを目にした瞬間、カーターが絶望的な瞳になった。
「クラーク、お前か。最後まで、お前は最後まで……」
カーターが、声を殺して泣き出した。
今度こそ、本当に終わったのだ。