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三剣の邂逅

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 とうとう門を登りだしたライアに、仕方なくクローブも後に続いた。
 二人は難なく門を越えると、まっすぐ正面の建物に向かって走った。
 先程の悲鳴が嘘じゃないかと思えるほど、屋敷は静まり返っている。明かり一つついていない家は、まるで廃墟のような不気味さがあった。
 正面玄関の扉は、当然のことながら、押しても引いてもびくともしない。ぐるりと屋敷の周りを一周してみたところ、側面の小さな小窓が一つ、開いているのを発見した。
 おそらくランディの侵入経路だろう。
 二人は示し合わせたように、そこから屋内へと入り込んだ。
 その窓は、長い廊下の一角に面していて、つい先程顔を出し始めたわずかな月明かりで、かろうじて通路が見えた。
 クローブはライアを背後にかばいながら、慎重に廊下を奥へと歩き出した。
「兄さんは、どっちへ行ったのかしら?」
「さあな」
 夜目が利き、方向感覚にも自信のあるクローブだが、さすがに人様のお屋敷という人為的な空間の中とあっては、いささか分が悪い。勘だけを頼りに、自然と、奥へ奥へと向かっていた二人は、一つの部屋の前の床で、何かを見つけ、立ち止まった。落ちていたのは、一足先に来ているはずのランディが身に付けていた、マントらしきものだった。
 二人は、息を呑んで、部屋の扉を見つめた。中からは、物音一つしない。クローブが扉のノブに手をかけ、そっと手前に引くと、扉は音もなく、三センチほど開いた。
 中は書斎のようだった。
 屋敷自体と同じで無駄に大きい。だが、これといって怪しげなところや、人らしき影は何もない。今度はライアが、思い切って、扉をさらに奥へと押しやった。
 完全に開いた扉から中を見てみたが、やはり変わったところは何もない。二人は恐る恐る、書斎の中央まで入ってみた。
 すると、そこまで来て、床の上で何かが光っていることに気がついた。
「?」
 ライアが摘み上げてみると、それは金色の鎖だった。
「これは……」
 ライアが、少し離れた机の上の書類らしきものを調べているクローブの方に向き直った時、すぐ後ろから声がした。
「ほう、今度は女か」
 ギクリと体を強張らせた時、ライアの腕は、近くにいた人影にしっかり掴まれていた。
「きゃあ!」
 クローブが、即座に腰の剣を抜く。その瞬間、突然部屋の明かりがついた。
 クローブの目が、ライアの腕を捕えているいかつい男の顔を捉えた。その後ろでは、本棚の一部が、内側に開かれたままになっている。
「隠し扉か」
 呻くクローブに、男はニヤリとげせた笑みを浮かべた。
「お前たちのような不当な輩が多いんでね」
 男は目線を足元に移した。ライアが放り出した鞄が、そのままになっている。
「おい、そこの荷物を調べろ」
 男が背後の扉に声をかけると、中から彼の従者らしい痩せた男が一人、姿を現した。
 言われたように鞄をあさると、中から、あの短剣を取り出した。
「これは!」
 男の目が大きく見開かれる。そのままライアとクローブを交互に見やると、笑い出した。
「そうか、そういうことだったのか。幽霊騒動の犠牲者の顔ぶれを見て、何かあるとは思っていたが、なるほどな」
 大きく首を振りながら、一人で納得している。
「待ち伏せしていた甲斐があったというものだ」
 男の言葉に、クローブが敏感に反応した。
「お前、クインか」
「そうだ。俺が実家に逃げ帰ったと本気で思ったか。油断させて捕まえてやろうという作戦よ。まあ、ひっかかるかは五分五分だったが、うれしいぜ」
 クローブは唇を噛み締めた。
 ランディを誘き出すつもりが、自分たちの方が誘き出されてしまったのだ。
 クインの腕の中で怯えたライアをちらりと見やり、クローブが腰を落として剣を構えた。
「おっと、変な真似はするなよ。お前の強さは聞いてるからな。動くとこの娘の首をへし折るぞ」
 クインは、ライアの腕を捕えているのとは逆の手で、ライアの首を強く掴んだ。
 ライアが苦しそうに顔を歪ませる。クローブはすぐさま剣を下ろした。
「それでいい。あの男から剣を取り上げろ」
 クインの命に従い、先程の従者が、クローブから剣を奪い取った。
 従者が剣を持ってクインの前に進み出た瞬間、クローブはその背後からあの煙玉を、クインに向かって投げつけた。
「何!」
 一瞬動揺したクインから素早くライアを奪い取る。ライアはクローブの胸に飛び込んだ。
 そのまままっすぐ扉へ向かったが、いつの間に閉められたのか、びくともしない。
 退路を求めて振り返った二人を、煙から立ち直ったクインがにやにやと見つめていた。
「どこへ行こうというんだ。お仲間はこっちだよ」
 言うなり、カーテンの陰に隠れていた紐を引っ張った。途端。
 二人の足元の床が、急に下へと落ち込んだ。
「うわっ!」
「きゃああああ!」
 上げた悲鳴は、どしんという鈍い音と、強い振動によりすぐに途切れた。
 見かけほどは深くないらしい。
 それでも、かろうじて見上げた入口は、とても登ることのできそうなものではなかった。
「そこで大人しくしてるんだな」
 バタンと床を閉められて、急に視界が真っ暗になった。
「ライア、大丈夫か?」
 クローブの声が真下に聞こえて、ライアははじめて、自分がクローブの上に乗っていることに気付いた。
「あっ、ごめんなさい」
 慌てて体をずらす。
「ケガはないか?」
「私は平気。それよりクローブは?」
 クローブは落ちる時、全身でライアを庇ってくれたのだ。
「ちょっとばかし腰を打ったが、大丈夫だ」
 その時、シュッという乾いた音がして、すぐ近くに小さな炎が現れた。ライアが驚いてクローブに飛びつく。炎はゆらゆらと宙を舞い、やがて一ヵ所に落ち着いた。
 よく見ると、その炎は、床に置かれた小さな蝋燭の上に灯されている。
「そこにいるのは誰だ?」
 クローブが、目の前の暗闇に向かって問いかけた。その声は落ち着いている。
 ライアも息を呑んだ。先客がいる。ということは……。
「兄さん?」
 思わず呼びかけたライアの声に合わせて、闇から、ついに一人の男が姿を現した。

作品名:三剣の邂逅 作家名:夢桜