小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

三剣の邂逅

INDEX|21ページ/51ページ|

次のページ前のページ
 

「皆無とは言えないだろう。二人が就いていた地位や立場は、なにかと気苦労の多い役職だった。だが、王を殺すほど病んでいたかと聞かれれば、どうしても首を捻らざるをえない。そもそも動機になりそうなものなど、あるはずがないんだ。二人はこの国一番と言えるほど忠誠心が厚かったし、王を殺したところで、なんのメリットにもならない。そのうえ、クリフ王自身にも、殺されるような理由は何もないんだ」
 ライアは、ジュスイの言葉に無意識のうちに頷いていた。
 クリフ=ウォーロフ王。この先王に対する評判を、ライアはカナリと共に宿屋で過ごしていた昨日、客や店の人との会話から、それとなく聞いていた。
 そこで得られた情報は、クリフ王は心根の優しいお方で、民のことを気にかけ、些細な問題にも耳を傾けてくれる、名君だったというものだ。
 中でも最大の功績は、それまで敵対関係にあった隣国、カラモアと和平を結んだことで、さらに内紛で流れてきたその国の移民を受け入れ、隣国にまでその名を知らしめたという。
「お慕いする者こそ数え切れないが、恨まれるような要素は何一つ持ち合わせていない」という民の評価は、かなり信憑性の高いものと考えていいだろうと、ライアは思っていた。
「王にも問題がない、か」
 クローブが困ったように頭を掻いた。
「で、その二人が当時何で悩んでいたのかは、知っているのか?」
「さあ……。あいつらは自分の抱える悩みを、むやみに口にしたりはしなかったからな」
 クローブは、ジュスイの表情が微妙に揺れたのを見逃さなかった。
「……本当は、何か心当たりがあるんじゃないか?」
 鋭い指摘に、ジュスイが、驚いた顔でライアを見た。
「お前の護衛は、なかなか鋭いな。その通りだ。確証はないが、気になることならある」
 ライアとクローブは同時に身を乗り出した。
「俺は、あの事件には、カーターが少なからず絡んでいると思っているんだ」
「カーター?」
「王の側近の三人目だ」
 二人は息を呑んだ。側近のうちで唯一王暗殺の犯人ではなく、今なお生きている男。確かに怪しそうだ。
「そいつはどんな奴なんだ?」
 クローブがやや興奮気味に尋ねた。
「カーター=モンカルニ。上流貴族の出で、こいつと死んだクラーク、イアンの三人は幼馴染なんだ。三人とも仲はとてもよかったが、性格はまちまちでな。カーターは三人の中では一番大人しかった」
「で、そいつがどう怪しいんだ?」
 ジュスイは、少しだけ遠い瞳をした。
「あの事件の少し前から、三人の様子がどこかおかしかったことに、気付かなかったわけではないんだ。カーターだけが別行動をとることが多くなっていた。喧嘩でもしたのかと思っていたが、どっち側に非があるとか、そこまではわからなかったし、その時はさほど気にも留めていなかった。三人の間に何かあったと確信したのは、あの事件のすぐ後からだ。お前たちは、あの事件でどうして、山中に潜んでいた男たちが、クラークたちが王を殺すために仕掛けた輩だとわかったか知ってるか?」
 二人は揃って首を振った。その点に関しては、文書館の記録には記されていなかった。
「あれは、国王暗殺後、王弟たちに傷を負わされた刺客の男の一人が、クラークたちに助けを求めたかららしいんだ」
「助けを?」
「ああ。それで王弟たちは、国王暗殺の真の首謀者がクラークたちだと知り、問いつめたところ……」
 ジュスイはここで言葉を切り、渋い顔をした。
「自分たちの企みがばれたクラークたちは、王弟とカーターをも殺そうと、襲いかかったらしい」
「うそっ!」
 ライアが悲鳴に近い声を上げ、ジュスイが慌てて腰を上げた。
「いや、この点に関しては、俺は全く信じてない。あんな卑怯な手で王を殺そうと謀ることからしてありえないが、どんな理由があろうと、親友に手をかけるようなことをする奴らでは決してない。それは断言できる」
 ジュスイは力強く言った。
「しかし、そう考えると気になるのはカーターだ。あいつは法廷で、クラークたちに襲われたとはっきり証言したんだからな」
 ライアとクローブが目を見開いた。
「考えられることは二つ。あの事件が事実クラークたちの犯行だった場合。そして……あいつが、偽りの証言をしていた場合、だ」
 ジュスイの声が震えた。
「だが、俺としては、前者はどうしても考えられない。そうなると後者だが、もしあいつが偽りの証言で二人を犯人に仕立て上げたのだとしたら、それなりの理由があるはずだろ。長年の友情を裏切る何かが。それが、あの事件の前にあった何かと関係しているように、俺には思えてならないんだ」
 ジュスイが言葉を切ると、部屋は急に静まり返った。
「カーターってのは、そういうことをしそうな奴なのか?」
 クローブが探るような口調で尋ねた。
「俺は、あいつとはあまり付き合いがなかったが、なんていうか、大人しくて口数の少ない分、何を考えてるのかわからないところがあったな」
「大人しいっていうと、気が弱かったりもしたのか? 例えば、誰かの片棒を担がされたなんてことは?」
「それは……なんとも」
「仮にカーターがクラークたちをはめるのに一役買ってたとして、そいつが主犯でない可能性は?」
「…………」
 ジュスイは、今度はライアにもわかるほど、煮え切らない態度になった。
 その疲れた瞳に浮かんでいるのは、葛藤と苦悩と――恐れだ。
「……すまないが、ここから先のことは、自分たちで見極めてくれないか」
 そう言って、すまなそうに頭をたれた。
「できることなら、全面的に強力してやりたい。いや、当時だったら、何をも顧みずそうしていただろう。だが……こんな俺にも家族がいるんだ。今は離れて暮らしているが、俺が下手なことを言うと、家族にも危害が及ぶ。偽りの前に屈することは決してしないが、多くを語らないことによって家族を守ることを、俺はこの十年で学んだ」
 これ以上の情報提供を拒む、唐突にすら思えるジュスイの言葉は二人を戸惑わせたが、かといって、無理強いする気にはなれなかった。
 それでも彼は、今まで十分すぎるほど、フレノール家のために心を砕いてきてくれたのだ。そして、その思いは、きっと今も色あせてはいない。
 それに、ジュスイの態度の変化は、ライアたちに、今後の捜査の有力な手がかりを与えてくれてもいた。
「主犯」に関する話題には、なんらかの危険が伴うのだ。
「そのカーターって奴は今どうしてる? 会うことはできるだろうか?」
「無理だろうな」
 返答がもらえないのを覚悟のうえのクローブの言葉に、しかしジュスイは即答した。
「事件後あいつは兵役を退いて、今は国の大使として働いている。忙しいし、一般人がおいそれと会えるご身分じゃない。俺だってもう八年近く会ってないからな」
「そうか。またずいぶんと職変わりしたもんだな」
「まあな。もともとは大人しかったがまじめで慎重な奴だったし、今の方が剣を握るよりも合っているのかもしれないが」
「そうか」
「…………会いにいくつもりか?」
 ジュスイが、低く尋ねた。
「愚問かもしれんが、ライア、やはりお前は、十年前の事件を追うのか?」
「………………………」
作品名:三剣の邂逅 作家名:夢桜