三剣の邂逅
極端に低い声で発せられるその響きは、間違っても、喜びや誇りといった、正の感情などではなかった。悲嘆と悔恨。そして、心からの苦痛。
ライアとクローブは、店主が話し始めるのを、根気強く待った。
そしてとうとう、店主は、重い口を開けた。
「三剣の持ち主のうち、二人はもういない」
「いない?」
「ああ。死んだんだ。それも、国王暗殺という大罪を犯してな」
「!」
一瞬、その場の空気が凍りついた。
「どういうことだ? その三人ってのは王の側近なんだろ。しかもあんたの言う、王の心を分けし者に与えられる剣を賜ったってことは、並大抵な信頼関係じゃなかったはずだ」
ライアもまったく同じ思いだったが、店主は憎々しげに叫んだ。
「なんと言おうとそれが事実なんだ! 俺だって信じたくないさ。王様からこの依頼を受けた時、俺は本当に心を込めて作ったんだ」
荒らげた声は、急速に勢いを失い、震えを帯びて弱くなる。
「あの時俺は、この仕事が王様から頼まれた仕事だってことに、喜びを感じていたんじゃない。俺は……身分の違いとか、そういうものに捉われないで繋がっている関係が、無性に嬉しかったんだ。同時に、羨ましくも思ったもんだ。人として王に好かれているその三人が。それなのに、それなのに……」
そこから先は、言葉にならなかった。向けられた背と震える肩、時折聞こえる小さな嗚咽は、長い間封印していた感情がもたらした衝撃の大きさを物語っている。
そして、その引き金を引いてしまったのは、自分たちだ。
ひどい罪悪感にかられてライアが隣のクローブを見ると、彼もまた、小さく頷いた。
二人は椅子から立ち上がると、揃って深々と頭を下げた。
「話を聞かせていただいて、どうもありがとうございました。嫌なことを思い出させてしまって、本当にすみません」
扉に手をかけた二人に、いまだ背を向けたままの店主の声が聞こえた。
「これでわかったろ。この国では、三剣の話題自体がタブーなんだ。特に城関係者の間ではな。あんたらも、むやみにその剣をちらつかせない方が身のためだ。何に巻き込まれるか、わかったもんじゃないからな」
「忠告、感謝する」
ライアの代わりに、クローブが短く答えた。
クローブとライアは、しばらく黙って歩を進めていたが、ライアの胸中は、穏やかではなかった。
父の持っていた短剣が、自分たちの村から遠く離れた隣国の紋入りだった。それは、国王の心を分けし者の証であって、たった三人にしか所持を許されていないものだが、そのうち二人は、王殺しという、とんでもない事件の犯人だという。
ライアの父は、紛れもなく、その一本を所持していた。
父が城勤めをしていたなどと聞いたことはないが、もしかしたらという一抹の不安が、頭を離れてくれない。
「文書館に行ってみるか」
ふと、隣を歩いていたクローブが提案した。
「その剣の秘密を知るには、どうもこの国で起きた先代の王殺しの事件を調べる必要がありそうだからな」
「そうね……文書館になら、当時の事件記録が少しは載ってるものね」
「行ってみるか? 判断はお前に任せる」
クローブがいつになく真剣な目で言った。
おそらく、ライアが抱えている不安を、クローブも持っているのだろう。
「行くわ」
ライアは、クローブの目をまっすぐに見つめて答えた。
「私は、真実が知りたい。例え、それが望まないものだったとしても……」