三剣の邂逅
「名前は、バーガス=トラメット。王直属軍の副司令官をやっている男らしいんだが、ランディはこの男のことを、執拗に聞いたそうだ」
「バーガス=トラメット?」
「そうだ、知ってるか?」
ライアは首を振った。
「聞いたことない名だわ。……兄さんとはどういう関係なのかしら?」
「さあな。具体的に何を話したとかそういう細かいことまでは教えてくれなかったんだ。俺が話だけ聞いて、早々に引き上げようとしたんで、機嫌を損ねたらしい」
肩をすくめるクローブを、横からカナリがつついた。
「本当に? 実はよろしくやったんじゃないの?」
「お前……若さがないぞ」
クローブが顔をしかめてカナリを見た。ライアはまだ考え込んでいる。
「兄さんはその人の何が知りたかったのかしら」
「肝心なところが聞けなかったな。それがわかれば、そいつとランディの繋がりも見えてくるんだが」
クローブはそう言うと、ふと首をひねった。
「そういえば、あの女、妙なことを言ってたな」
「妙って?」
ライアの代わりにカナリが聞き返した。
「俺がそのバーガスのことをもっと詳しく聞きたいって言ったら、これでそいつのことを話すのは三度目で、もううんざりだと言ったんだ」
「三度目?」
ライアはわざわざ指を使って数えてみた。兄とクローブ。どう考えてみても二人。
「それじゃあ、兄さんの他にも、このことを聞いた人がいるっていうこと? 一体誰が?」
ライアが身を乗り出した。
「そんなこと俺が知るか。まぁ、あっちにしちゃ、客らしくない客に話をしてやらない口実のつもりだったんだろうが、こっちとしては結構気になる情報だよな。その三人目に、何か手がかりがあるかもしれないし」
カナリがぷっと頬を膨らませた。
「でも、その三人目を見つける方法は何もないんでしょ? だったらそんな手がかり意味ないじゃん」
「だが、少なくともバーガスがいるだろ。奴なら名前も職業もわかっているし、上手くすれば接触できるかもしれない」
クローブの横で、ライアが不安げな声を出した。
「でも、その人って王直属軍の副司令官なんでしょう? そんな偉そうな人が、会ってくれるかしら?」
「それは行ってみなけりゃわからないだろ。とりあえず顔だけでも拝みに行こうぜ。明日早速行くことにして、今日はもう寝よう。疲れてきた」
大きなあくびをしたクローブにつられて、ライアとカナリも急に眠くなってきた。神経疲れもたたっているらしい。
三人は話をそこそこに切り上げると、各々の部屋に散っていった。
兄探しにほんのわずかでも手がかりが掴めて、その晩ライアは、久しぶりに深く眠ることができた。
この外の闇と静寂の中で、ある事件が頭をもたげたことに、気付くはずもなかった。