狂言誘拐
「そうですか。あれに似たようなものは?」
「ちょっと待ってください」
暫く待っていると、直径が二センチ、長さ五センチ程度の、白い円筒形のものを見せられた。
「いいですね。それを頂きましょう」
「これはね。原料がトウモロコシですから、環境にやさしいと云われてます」
「いいわね。文句なしよね」
亜矢子は嬉しくてたまらないといった笑顔になった。車の後部座席が一杯になるくらいの大きさの、ビニール袋入りのものを買った。八千円を亜矢子は支払った。
*
運ぶのは問題なかった。何しろ軽いのだ。だが、買った物を車の後部座席の上に押し込むのが大変だった。中野は二十分も格闘していた。どうしてもドアが閉まらない。ラッシュ時の満員電車と同じだ。駅員の苦労がわかると思った。
やっと押し込んでドアを閉めたとき、ぐぎっと、腰のあたりが音をさせ、激痛が走った。
中野は道路の上に倒れた。
「どうしたの!?」
亜矢子は蒼白になった。
「やってしまった。ぎっくり腰だ。救急車体験三回目は確実!」
「救急車を呼ぶの?」
亜矢子はしゃがみ込んで訊いた。