狂言誘拐
「小説のための勉強として、いろいろなところに出没しましたね。今は元気がなくて休日は殆どパソコンとにらめっこです」
「ねえ、気付いてる?」
パトロールカーがすぐ後ろを追走しているかと思うと、数台後ろになったりしながら、
ずっと同じ道を走っていた。追跡されているのだろうか。
「うしろのパトカーのことですね?」
「気になって振り向いたらついてきてるような気がするの」
「そこを左に曲がってみますか」
「そうね。そうしてみて」
その道も住宅地の中の道だった。左折してすぐ、ミラーにパトロールカーが映った。
「従いてきましたよ。どういうことですか?」
「手配されてるとか?」
「スピードを上げて迫ってくるわけでもありませんね」
道が次第に細くなり、耕作地の中をまっすぐに行く。中野は、いやな予感がした。
「あっ!農家よ」
その家の専用道路になってしまった。農家の庭に入って行く。
随分広い庭に入った。大きな農家だ。パトロールカーもその庭に入り、警察官が下りて来た。警察官に訊かれた。
「ここに用があってきたんですが、ここのひとですか?」
「法事できたんですけど、ひと月早かったみたいです。思い違いですよ」
中野と亜矢子は笑ってごまかすしかなかった。